民家再生物語〜飛騨の国から(5)

いよいよ計画

(友人との往復書簡より)
by 大竹

「マスター、金魚二杯ちょうだい。」

お湯割の焼酎に、シソの葉と鷹の爪が入ったグラスが渡された。少し奇妙な組み合わせだが、これがなかなか旨い。グラスの中に、まるで赤い金魚が泳いでいる様なのでこの名前がついたらしい。この店は、15〜6人も入れば満員になる小さな店だ。マスターの趣味というか、思いで詰まった70年代風の店。 そして、この店のマスターは、私にとって一番身近な男なのだ。私と家族を支える、もう一つ柱なのだが、これまた自由人で、頼れる大黒柱には材料的に向いてはいない。本人もその様に思っているようだ。この事も、民家再生の問題の一つなのだが…。 金魚を飲みすすめながら、久保氏と民家再生 の段階的な計画を考えてみた。

その計画とは、
1. 借家契約を結ぶ。
2. 人間関係を考える。家主さんに土地、建物の所有を整理してもらう。(農家の方は、以外と口約束  のような形で交換している場合もあるようなのだ。)
3. 二階を整理し、トイレを直す。
4. 家を買い、借地権を結ぶ。
5. 借地権を担保に資金を作る。
6. 本格的な家のリホームに入る。

久保氏と二人で、現場と回りの人々に会い、そして私の家族を知って作った計画なので、私は大きく頷いた。それから、私はカウンター中のマスターの顔を見て、まず始めの難関がそこにあると思った。

翌日は、知り合いの一刀彫りと木工の店に行った。
飛弾はたくさんの職人がいる。
私は保険の営業をする事で、彼らと出会う機会が増えた。彼らが作り出す作品は工芸品であり、芸術品ではない。生活の中に存在し、親しんでこそ価値が生まれるのだ。
私の携帯にはストラップ代わりに、一刀彫で作った根付け(昔、印籠のアクセサリーのようなモノだった。詳しくは知らないが。)が付いて愛着を持っている。

もっともっと、彼ら職人と私たちが出会う事ができ、その作品が生活の中に親しんでほしいと私は願っている。そして、もっともっと職人達に色々な注文を出してほしいと思う。それによって彼らの技術、センスが磨かれていくのだから。

おみやげの飛弾の駄菓子を買った久保氏を、駅で見送った。今回、時間が無かった為に温泉 巡りが出来なかったの残念だが、久保氏が高山へ来てくれた事は本当に嬉しかったし、古くから友人の有り難さを知った。学生だった頃とは違い、それぞれが専門の知識と知恵、経験を持ち、お互いを助けあえる存在になっている。

年を取るのも悪くない!と、明るい気持ちになった。

これから飛弾には、寒い寒い冬がやってくる。

民家再生物語〜飛騨の国から(1)
民家再生物語〜飛騨の国から(2)
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