民家再生物語〜飛騨の国から(1)

私、民家を見つけた!

(友人との往復書簡より)
by 大竹

ずーと借家を探していた。今のアパートより大きい一軒家で良かった。それだけが希望で探していたが、この町では見つけられなかった。

「借家を探しています。何かあったら教えて下さい」 と誰彼となく声を掛けた。その頃私は保険の代理店として独立し、顔見知りなった人間も増えていた。

隣村に住むお客様のSさんから連絡があった。「一軒空いている家があると汲み取りのおじさんが言っていました。連絡とってみますか。」営業の仕事は大変だが、人と出会える楽しさと魅力もある。思いもしなかった人と会えるのだ、そしてこんな出逢いも。私は早速、汲み取りのおじさんに電話をかけ、その家と持ち主に会いに行きたいと話した。

古民家

古民家

晴れた日の昼下がり、私はその家を見た。それは、民家だった。大きすぎず、小さすぎず、真っ直ぐ正面の乗鞍に向き合って建っていた。家の持ち主の「I」さんは、頭にバンダナをかぶり迷彩色のズボンをはいていて、私が想像していた農家の方とは違い安心した。「I」さんは飛弾牛を飼育している。家の柱は山から彼のお父さんと一緒に木を切って造ったもので、屋根もしっかりしていると、愛しさを持った言葉で話している。ここに住んでいた親戚は、新しい家を建て替え住んでいる為、住む者がいなくなったのだそうだ。「直せば充分住める家だ。柱も屋根もしっかりとしているから。自分で直して住むなら、タダで借してもいい。」と、「I」さんが言った。

タダ、自分たちで直す。私は少し興奮した、思ってみなかった条件の家、それも民家だ。「I」さんに前向きに考えたいてみたいと告げその場を別れた。

私はその足でこの家を教えてくれたSさんの家に行き報告した。Sさんは陶芸家である。家賃3万円のこれまた立派な民家に住んでいる。彼の場合は役場に連絡をしてこの民家を見つけたそうだ。

(町や村の場合、役場の方が空き家情報を持ってる事がある。)

彼はその家に自分で仕事場の小屋とカマを造り、やきものを作っている。彼の家族は、明るい奥さん、丸坊主くんと生まれたてベビーと犬一匹だ。関東方面の出身者で、九州で陶芸の修行をし、この飛弾の地で仕事場を持った。だから奥さんは九州出身。Sさんの陶芸の作品は、使いやすく、渋く、そして手頃な値段で売っていて、飾る陶芸作品ではなく、生活雑器として使ってほしいというのが彼の作品への思いだ。私は急須と湯飲みを家族で使っているが、お茶を飲むのが楽しみになった(たとえ安いお茶でも…)。

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